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突然の自然災害から会社と従業員を守るための法律知識と労務管理 ~自然災害と賃金 編~

突然の「自然災害」から会社と従業員を守る 労務管理 と 法律知識

隈慧史

弁護士 福岡市雇用労働相談センター相談員

隈慧史

日本における近年の自然災害の頻度・規模は凄まじく、九州における過去5年間を振り返ってみても、毎年のように大規模な自然災害が発生しています。

2020年9月 台風10号による暴風や大雨
2020年7月 令和2年7月豪雨
2019年8月 九州北部大雨・大雨特別警報
2018年7月 西日本豪雨
2017年7月 九州北部豪雨
2016年7月 熊本地震・本震 

自然災害は、

①突然やってくること(突然性)
②会社の存続・社員の命に大きな影響を及ぼす可能性があること(重大性)
③災害発生後に対応しようとしても取り返しのつかない可能性があること(事後対応の困難性)

という特徴があります。
これらの特徴からすると、会社が自然災害に対して備えておくことは、会社の存続や従業員(ときにはその家族)の生活とって非常に重要であるといえます。

そこで、本コラムでは、労働分野・労務管理における自然災害対策の一つの重要テーマとして、「給与」に関し最低限押さえておくべき法制度を概観していきます。

具体的には、以下の3つのルールをみていきましょう。
1.休業手当
2.雇用調整助成金
3.賃金の非常時払い

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1.休業手当

例えば、自然災害により事業場が直接の被害を受けて業務が不可能になった場合、会社は、従業員に対して給与・手当を支払う必要があるのでしょうか。

ここで、労働法には、「労務の提供がなかった場合には、賃金の支払義務は発生しない」という基本的な考え方があります(ノーワーク・ノーペイの原則)。休業手当は、この原則の例外として位置づけられており、一定の場合には従業員が働かなくとも会社には休業手当を支払う義務があるとしています。

では、どんな場合に会社は休業手当を支払うべきなのでしょうか。労働基準法第26条をみてみましょう。

使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当てを支払わなければならない。

労働基準法第26条

この定めによれば「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合」に会社には休業手当の支払義務があるとされています。

この「責めに帰すべき事由」という法律文言は、民法や取引に関する契約書でよく見かける法律用語ですね。もっとも、労働基準法第26条におけるこの文言は、休業手当が従業員の最低限の生活を保障するという制度趣旨であることから(民法の考え方よりも)広い概念だと考えられています。

具体的には、以下の2つの要件を満たした場合に初めて「使用者の責めに帰するべき事由」ではない(=休業手当の支払を要しない)ということになります。双方の要件又はいずれか一方の要件を満たさない場合には、責めに帰すべき事由として休業手当を支払わなければなりません。

「使用者の責めに帰するべき事由」となる要件
  • その原因が事業の外部より発生したものであること【外部要因性】
  • 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできないものであること【休業不可避性】

例えば、地震により事業所が直接の被害を受けた場合、①休業は災害という外部要因によること、②在宅での業務遂行が難しいなどの事情があるときには、経営者が注意を尽くしても休業は避けられないことから、「責めに帰するべき事由」はないため、会社が休業手当を支払う必要はありません。

以上の条文の理解に加え、次の2つの注意点を押さえておけばバッチリです。

まず、以上の議論は、あくまでも「法律上の観点」からの答えになります。会社として、被災した従業員の生活保障のために、賃金全額又は休業手当を支払うことは何ら問題ありません(この場合でも雇用調整助成金を得られる可能性があります(後述))。

また、例えば、会社が休業する必要性が全くないにも関わらず従業員を休業させたときのように、会社の故意・過失(または信義則上これと同視すべき事由)により休業した場合、従業員が働いていなくとも会社は100%(60%では足りません。)を支払わなければなりません(民法536条2項)。

以上をまとめると以下のように整理することができます。

場合 結論
①外部要因性+②休業不可避性を満たす場合 賃金、休業手当を支払う義務なし
※会社が任意に支払っても問題なし
要件①及び/又は②を満たさない場合 休業手当60%
会社の休業に故意・過失(または信義則上これと同視すべき事由)がある場合 賃金100%
※就業規則に民法第536条2項を適用しない旨の定めがある会社は、「過失」の有無についての検討は不要

2.雇用調整助成金

それでは、被災して営業できない会社が、それでも雇用を守ろうと従業員に対して賃金や休業手当を支払った場合に、会社は何らかの援助を受けられるのでしょうか。

ここで登場するのが「雇用調整助成金」です。
雇用調整助成金は、従業員の雇用維持に努力する会社に対する行政による支援制度であり、自然災害との関係でいうと、災害の影響により、事業活動の縮小を余儀なくされた会社(事業主)が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。

雇用調整助成金は、地震、台風、感染症等の自然災害が発生すると、それに伴い厚生労働省により「特例措置」が実施されることが多いです。この特例措置では、自然災害の規模や被害の甚大性等を踏まえ、助成額・助成率が引き上げられ、会社は行政から自然災害の規模に相応する支援を受けることができる仕組みになっています。

注意点としては、雇用調整助成金は、あくまでも「会社による申請」を前提に助成金等を支給する制度ですので、会社が主体的・能動的に動かなければなりません。また、特例措置は災害ごとに策定されるため、その都度支給条件を確認する必要があります。

したがって、大規模な自然災害が発生した場合には、厚生労働省のウェブサイトを確認した上で、会社が申請方法や助成金の支給要件を確認するようにしましょう。

3.賃金の非常時払い

最後に「賃金の非常時払い」をみておきましょう。
この制度は、労働基準法第25条に規定されています。

労働者が、出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合は、賃金支払期日前であっても、使用者は、既に行われた労働に対する賃金を支払わなければならない。労働基準法第25条

この「賃金の非常時払い」は、非常の費用を必要とした従業員から賃金の支払いを請求された場合には、会社は、給料の支払日を繰り上げて、働いた分の給与を支払わなければならないとする制度です。「前借り」は会社が貸し出す借金ですが、この非常時払いは「未払い分の賃金」であることに注意が必要です。

労働基準法第25条における「疾病」「災害」には、業務上の疾病や負傷のみならず、自然災害の場合も含まれると解されています。例えば、従業員が自宅で被災し、住居の変更を余儀なくされた際の費用は、会社の業務上に生じたものではありませんが、「非常の場合の費用」に該当するとされています。したがって、従業員から請求された場合には、会社は既に働いた労働分の給与を支払わなければなりません。

この制度は、従業員の緊急の資金確保のために有用ですが、認知度が低くほとんど知られていません。そこで、会社の労務管理・従業員の生活支援の一環として、自然災害が生じた際には、従業員に対し、同制度を利用し、賃金の請求が可能であることを周知・案内することも検討してみてはいかがでしょうか。


 

いかがでしたか?自然災害と労務管理の分野では、他にも多くの制度が関係していますが、最低限度の知識として、会社・従業員双方にとって重要な「給与」に関して以上の3つの制度を理解しておくようにしましょう。

チェックポイント
  • いかなる場合に休業手当を支払うか要件(条件)を理解している。
  • 雇用調整助成金がどのような制度か理解している。
  • 「賃金の非常時払い」制度の内容を理解している。

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この記事を書いた人

隈慧史

弁護士 福岡市雇用労働相談センター相談員

隈慧史

九州大学法学部卒業・九州大学法科大学院修了。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録。紫牟田国際法律事務所所属。2019年現代人文社季刊刑事弁護新人賞最優秀賞受賞。2020年フランス・パリ第2大学ロースクール修士課程修了。
現在、九州弁護士会連合会主任。主に企業に関わる法務・訴訟分野・国際案件・刑事事件に従事。
趣味はラグビーと将棋とゴルフ。

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