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判例とケースから学ぶ、試用期間中の解雇について

試用期間中の解雇について

矢口耕太郎

弁護士 福岡市雇用労働相談センター相談員

矢口耕太郎

こんにちは!FECC相談員の弁護士の矢口耕太郎です!

今回のテーマは「試用期間と解雇」です。
あたらしく採用した社員が、会社の期待に応えることができていないとき、会社はどのような対応を取るのがよいか、一緒に考えていきましょう。

1. ケースで考えてみよう

法人向けのシステムを提供している株式会社スタートアップの社長Aは、新たに営業職の従業員として、リファラル採用で営業力が高いとZから紹介を受けたXさんを雇うことにした。

雇用条件は、基本給:月給40万円  試用期間:2021年4月1日より6カ月間 である。
2021年4月1日より、Xは、会社で働き始めた。ノルマは課していなかった。Xの営業成績は、4月が30万円の売上、5月が15万円の売上、6月が20万円の売上であった。

Aは、売上が少ないことに驚き、営業部長BをXとともに営業に同行させたところ、Bから、「Xは一所懸命にやってはいますが、お客様の立場にたってまだ物事を見られておらず、これが営業ができない原因だと思います」という報告を受けた。「見込みあるか?」と聞いたところ、「指導したわけではないですが、素質はないような気がします。」とのことだった。

そこで、2021年7月3日、Aは「営業としての資質に欠けているので、就業規則(試用期間中に不適と認められるときの解雇)に基づいて解雇します。」とXに伝えた。

X「まだ私はそこまで慣れてないんです。決めるのが早すぎます!今検討していますというお客様も何社かあります!まだ3カ月試用期間はありますし、待ってください!」

A「君だと、とてもじゃないけど我が社の商品は売れないと思う。Zくんからの紹介だったから期待していたのだが。試用期間中だし、就業規則に規定もある。私の考えは変わらないよ。」

X「3カ月で判断されるのはどうしても、納得できません。Zくんからは良い会社と聞いていたのに、あまりにもひどいです!」

A「君は今自分の給料分の売上も上げてないじゃないか。うちの会社はまだ若くて人数も少ないし、営業に求めている数字も高い。うちでは絶対やっていけないよ。荷物を整理しなさい。」と伝えた。

3週間後、Xの代理人弁護士から、解雇の無効と解雇した日からの給与を求める裁判が起こされた。

2.試用期間とは?

いかがでしたでしょうか。
営業力を期待されてリファラル採用したXさんですが、A社長の期待には応えることができなかったようです。試用期間中に解雇となってしまいました。

そもそも試用期間とは、何でしょうか。

日本では、入社後数カ月間を「試用期間」として、この間に人物・能力を評価して、本採用するかどうかを決める企業が多いですね。
もっとも、日本の長期雇用を前提としたシステムでは、新規採用が慎重な選考過程を経て行われるので、実際に試用期間後に「本採用拒否」となることは少ないという実態があります。

こういった実態をとらえて、試用期間について、最高裁判例(最大判昭和48年12月12日三菱樹脂事件)は、

契約締結と同時に雇用の効力が確定し、ただ試用期間中は不適格であると認めたときはそれだけの理由で雇用を解約しうるという解約権留保特約のある雇用契約最大判昭和48年12月12日三菱樹脂事件

と定義しました。
その上で、

解約権の留保は、後日における調査や観察に基づく最終決定を留保する趣旨で設定されるものと解され合理性があり、留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められる。
試用期間中の労働者が他の企業への就職機会を放棄していることなどを踏まえると、留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される。

と考えています。

難しい言葉が続きましたが、要するに、通常の解雇ほど厳しい理由はいらないけれど、解約権を使うためには理由は何でもよいわけではなくて、合理的な理由が必要ということですね。

3. お互いの主張を見てみよう

さて、今回株式会社スタートアップの社長Aは、新たに採用したXさんを営業の期待した成績に応えられていないという理由で、採用してから3カ月後に「解雇」しました。この判断は正しかったのでしょうか?

実際にXさんの弁護士から解雇無効の訴えと解雇した日から給与を求める裁判が起きていますので、お互いの主張をみてみましょう。

4. どちらが正しい?

さきほどの最高裁判例にいう、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認されうる場合」に今回はあてはまるでしょうか?

もともと、民法では、雇用契約について期間を決めていない場合は、「各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができる」として解雇するのも自由であるとしていました。

今回、営業成績と給料との関係でみてみると

「Xの基本給は月給40万円」
「Xの営業成績は、4月が30万円の売上、5月が15万円の売上、6月が20万円の売上」

ですね。
自分の給料と同じ額すら会社で売上をあげられていないので、確かにこの数字では会社の期待していた営業成績ではないということが言えそうです。

ただ、今回はいくつか気になる問題があります。

まず、1つ目
「ノルマは課していなかった」ということ。
Xさんには採用されるときにどのくらいの数字をあげないと本採用にならないということは知らされていませんでした。

2つ目が、営業部長Bの
「一所懸命にやってはいますが、お客様の立場にたってまだ物事を見られておらず、これが営業ができない原因だと思います」
「指導したわけではないですが、素質はないような気がします」
という発言。簡単にXを見限っていますが、指導すれば何か変わったかもという気もしますね。

3つ目が、
「試用期間は2021年4月1日より6カ月間」ですが、
実際に解雇を伝えたのは「2021年7月3日」でまだ3カ月しかたっていないということ。ちょっと早すぎる気がしますね。

これらの要素が結論にどう影響してくるでしょうか。

どういうケースが「客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認されうる」のかは、法律には書いていません。
そこで、類似の裁判例などを参考にしていくことになります。

類似の裁判例として、東京地方裁判所平成21年1月30日判決(ニュース証券事件)をみてみましょう。証券会社の営業マンが試用期間中に同じように解雇されたという事案です。

必要な要素だけ抜き出してみますと、

「なるほど平成19年5月21日から同年9月3日までの期間の手数料収入は高いものとはいえないが、わずか3カ月強の手数料収入のみをもって原告の資質、性格、能力等が被告の従業員の適格性を有しないとは到底認めることはできず」
「原告の成績が改善される見込みがない旨の被告主張を裏付けるに足りる証拠はない」
「原告の成績が今後改善される見込みがなかったと断ずることはできない」
試用期間は6カ月とする規定が置かれているのに「なにゆえ3カ月で十分であるのか明らかでない」

ということを判示して、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認されうる場合にはあたらず、解雇は無効と判断しました。

さて、これを今回のケースと比べてみますとどうなるでしょうか。

Xについては、
確かに売り上げは給料が低いですが、まだ営業成績は「3カ月」だけですね。ノルマが設定されていたわけでもありませんので、採用してわずか3カ月の段階でこれが高い低いということを評価することも難しそうです。そうすると、3カ月の売上だけで従業員の適格性を有しないということは認めることができなさそうですね。

また、Xにおいては、
「一所懸命やってはいる。特段問題行動があるわけではない。」ということでした。実際に教育していないので、成績が改善される見込みがないことを裏付けるに足りる証拠もなさそうです。

Bは見限っていましたが、きちんと指導していれば、今後改善することもあったかもしれないですね。

さらに、今回試用期間は6カ月でした。なぜ3カ月でもう十分と判断したのかについても不明です。

そうすると、今回のケースでは、ニュース証券事件に照らすと本件解雇は、
「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認されうる場合」にはあたらず、解雇は無効と判断される可能性が高い。

ということになりますね。

5. どうすればよかったのか?

解雇が無効になってしまいますと、会社は社員に対して、解雇してから判決が出るまでに支給されたであろう給与を全額支払う必要があります。
裁判は数年かかることもあり、給与の数年分ということになりますと、その額は1000万円を超えることもあります。
これだけでも、中小企業にとっては非常にダメージが大きいのです。 株式会社スタートアップはこのようなトラブルを防ぐことができたのでしょうか。

考えられる方法としては

どうすればよかったのか?
  • どのような営業成績を期待しているのか、採用時に基準を設定する
  • 指導と教育は最大限行う。
  • 試用期間を6カ月と定めたのであれば、その期間については成績の改善余地があるものとみて観察する。

ということが挙げられます。

採用の際に営業の期待値を明確にすると、社員たる資質、性格、能力等が適格性を有しているかの基準が明らかになりますね。
そして労働者側も、期待値がわかればそれが基準となっていることを意識することができます。自分が解雇される、本採用を拒否されるにしても受け入れやすくなりますね。

また、指導教育を最大限行わないと、改善の見込みの有無が判断できません。労働者側からみても、指導と教育がきちんと行われていれば、最大限の実力が発揮できることになり、それでもダメならということで受け入れやすくなる要素になります。

さらに、会社自身が試用期間を6カ月と定めたのであれば、その期間については成績の改善余地があるものとみて観察していきましょう。
どうしても6カ月も我慢できないというのであれば、試用期間を6カ月ではなく例えば3カ月程度とし、労働者の同意を得て6カ月まで延長できるとするような形にすべきです。

こういった対応を取ることによって、試用期間中のトラブルを予防することができます。

6. 最後に

試用期間についての他のポイントについては、厚生労働省が公開している「雇用指針」にも記載されています。こちらから簡単にダウンロードできますので、一度確認してみてください。

試用期間中のトラブルで一旦裁判になると、どちらの結論になるとしても解決までに1年以上の年月がかかることが予想されます。裁判の準備をするだけでもかなりの労力と時間が必要になります。トラブルを防ぐためには、「解雇」というような一方的な手段をとるよりも、お互いが納得の上で退職する、しないの結論を導くことが必要です。

以下のポイントを押さえておきましょう。

今日のポイント
  • 社員を採用する際には、どのような成績、能力を期待しているか、できる限り明確に伝えるようにしましょう。
  • 試用期間中の解雇といえども簡単にはできないことを理解しましょう。
    一旦解雇が無効になると、社員の復帰とともに、解雇してから判決までに支給されたであろう給与を支払う必要があります。
  • 試用期間中は期間満了まで最大限指導と教育をして、それから判断するようにしましょう。

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この記事を書いた人

矢口耕太郎

弁護士 福岡市雇用労働相談センター相談員

矢口耕太郎

鴻和法律事務所所属。九州大学法科大学院非常勤講師。中小企業から上場企業まで、幅広く企業法務を取り扱っている。特に法務や労務の整っていないスタートアップ企業に対しては、労務管理から契約書整備、クレーム対応、株主総会や取締役会の運営支援まで、わかりやすく丁寧に指導することを心がけている。

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